衣冠(衣冠単)

衣冠の構成

衣冠単(いかんひとえ)
冠(垂纓(すいえい))・紙捻(こびねり)(ひとえ)指貫(さしぬき)()(ばかま))、袍、浅沓、末広(すえひろ)(つま)(くれない))、帖紙(たとう)、檜扇、笏
衣冠
冠(垂纓)・紙捻(こびねり)(かけ)()(紫紐勅許(ちょっきょ)ありの場合)、指貫(奴袴)、袍、浅沓、末広(中啓)、蝙蝠(かわほり)(夏用)
衣冠

衣冠は元は宿(とのい)装束です。村上天皇の時代頃、(てん)(とく)4年(960)から、緊急の時は衣冠・直衣(のうし)で参内することが認められるようになります。
衣冠は、江戸時代には明確になり、有位者全員に対する装束となり、文武ともに最も広く用いられました。

日本服飾史《殿上人冬の衣冠》参照

()(ばかま)

指貫(さしぬき)袴・(さし)()
指貫は下括(げくくり)とし、行幸供奉(ぐぶ)や非常時の場合は上括(しょうくくり)としました。

差籠((さし)())≒切袴
近世には、指貫の略式として通常着ました。1日と15日は、指貫を着ました。

帖紙(たとう)

紅鳥子(壮年)、白檀紙(老年)

(きょう)(ぼく)(はさみぎ)

冠の纓をとめる物。
非常時は、柏夾(かしわばさみ)と称して、纓を外側に巻いて夾木で留めました。巻纓(けんえい)とは逆です。

衣冠に剣を用いる場合は、()太刀(だち)衛府(ようの)太刀(たち))と革緒を用います。
公卿は紫革、殿上人は藍革です。
鞘は、公卿は梨地蒔絵(まきえ)螺鈿(らでん)又は木地螺鈿、殿上人は梨地蒔絵又は木地螺鈿です。
金具は金装を用いました。野太刀の場合は、公卿は金装、殿上人は銀装で、鞘は双方同じで梨地又は沃懸地(いかけじ)蒔絵又は螺鈿、六位以下は黒漆銀装でした。

装束の色について

位袍

束帯と衣冠は位袍といい、位階により応じて袍の色が違います。これを位当色といいます。

平安初期の弘仁9年(818)の位当色は、臣下は、(こき)紫一位、(うす)紫二~三位、深(あけ)四位、浅緋五位、深緑六位、浅緑七位、深(はなだ)八位、浅縹初位となっています。

摂関時代になると、現在用いられている色になり、四位以上が黒色(紫色が濃くなる)、五位緋色(ひのいろ)、六位以下は縹色となります。緑は退色すると青になりやすいことから、二つの色は曖昧でした(緑衫(ろくそう)という)。

袴の色・文様

上皇は、薄色(うすいろ)又は浅葱(あさぎ)に、菊・唐草の文様で固地(かたじ)(あや)です。ただし江戸時代の霊元(れいげん)上皇は、御小直衣の際、表裏薄色・菊菱文、紅(うち)(ぎぬ)・菊菱文、(ひとえ)黄、指貫(さしぬき)・鳥襷文固織下括(げくくり)の例もあり、厳格には決まっていませんでした。

親王の元服後は、紫地白雲立涌文・浮織物で、壮年以降は固地(かたじ)(あや)で紫が淡くなります。40歳以降は縹で、さらに老年は白くなります。裏地は表地と同色の(へい)(けん)です。

摂関家の袴は、紫地白雲立涌文を用いました。摂政の袍は、雲鶴文を許されましたが、関白は、雲立涌文でした。袍と指貫が同じ文様になる場合は、家の異文を用いました。

公卿又は禁色勅許の指貫は、若年は紫地白鳥襷文の浮織物で、壮年以降は紫(ぬき)白に八藤丸文の固地綾(固織物)、40歳以降は縹となり、年齢とともに淡く、文様も大きくなっていきます。裏地は表地と同色の平絹です。

殿上人は、表裏とも紫平絹です。地下(じげ)は、表裏とも浅葱平絹です。

神職の装束

神職の装束は、明治27年(1894)の「神官神職服制」によって定められました。

大礼……正装(正服):衣冠
小礼……略服:狩衣
公式祭祀……斎服

また、昭和21年(1946年6月)、神社本庁の定めた「神職の祭祀服装に関する規定」が基本となります。

正装……衣冠(大祭等)
礼装……斎服(中祭)
常装……狩衣・(じょう)()(小祭・恒例の式)

衣紋道(有職故実)では、神職の装束は、特級・一級は黒袍(四位以上)、二級上・二級は緋袍(五位)、三級・四級は縹袍(六位以下)となります。
指貫は、特級は八藤丸大文白、一級は八藤丸文紫緯白、二級上は八藤丸文紫緯紫、二級は無文紫平絹、四級は無文浅葱平絹ですが、若干相違があります。

衣冠単の着装次第

装束を着けることを「お服を上げる」、解くことを「お服を下げる」といい、着る方を「お方」といいます。そして着せる者のことを「衣紋者(えもんじゃ)」といいます。前を「前衣紋者」、後ろを「(うしろ)衣紋者」といいます。

まず、お方は、冠・襦袢(じゅばん)・白小袖・(しとうづ)を着装します。
次にその着装次第ですが、総じて前衣紋者は座し、後衣紋者は立って上げるのを常とします。
お方は南を向き、装束(入帷(いれかたびら):装束を包むもの)は、お方の左後方(東)に置きます。南が無理な場合は、お方は左を向き、装束はお方の右後方(南)に置きます。
畳んである装束は、後衣紋者がさばき、お方の右側から着せていきます。

指貫(引上式)のはかせ方

指貫の腰紐を左右に広げ、引上紐を内側から引き上げ、腰の内側の四か所の輪に(かた)(かぎ)で結びます。後で高さを調整します。

前後を確認し、両足を踏み入れ易いように開きます。前衣紋者はお方の左足側、後衣紋者は右足側を開きます。

まず、右足を、次に左足を踏み入れてもらい、いったん静かに指貫を引き上げて、ひっかかりがないか確認し、いったん紐を結ばずそのまま下ろします。

単の着せ方・指貫の着け方

後衣紋者は座して単の襟を手前にして単をさばき、次に両手の小指と無名指(薬指)との間に袖口付近(少し内側)をはさみ、両手の拇指(親指)と食指(人差指)にて、襟を摘み、お方の後ろに立って着せます。この時少し肩に被せるようにします。

後衣紋者が右袖を引き延ばせば、前衣紋者は小袖の右袖をこれに入れます。次に後衣紋者が左袖を引き延ばすのを待って、前衣紋者は小袖の左袖をこれに入れます。

小袖とのおめりは、2分~3分ぐらい見えるようにします。

前衣紋者は、単の衣紋(えもん)(ひだ)(二幅ものはすべてとる)をとります。両手の四指を襞の内に入れ、拇指(親指)を手前にし、真直ぐに下に向けとり、右手で前を押さえて、左手で指貫袴を引き上げます。そして前衣紋者は紐をお方の右の脇から後ろに回し、次にお方の左の脇から後ろに紐を回します。後衣紋者は、両手にて前衣紋者から回された両紐の付根をとり一文字にして、単の内側で交差させた紐を前に回します。前衣紋者は上指(うわざし)糸が見えるようにして紐を前で交差させて後ろに回します。後衣紋者は、受け取った紐を衣紋結びで結びます。

次に後衣紋者は、後ろの単の襞を取り、後ろ腰紐を上げ、前衣紋者に渡します。前衣紋者はこれを受け取り、衣紋結びで結びます。この時、二掛目にすべての紐に掛けます。

前衣紋者と後衣紋者は、前後で左右の衣紋襞を抜きます。まずお方の右側から抜きます。抜き方は、右手の食指(人差指)と中指で、襞が逃げないように摘み、拇指(親指)で前腰を押さえ、左手の拇指(親指)を脇から単の中に入れ、少しずつ巻き上げるように抜き、形を整えます。2寸ぐらい抜いて、形良くたるませます。これをお方の前後左右で行います。左側の場合は手が逆になります。

袴の内側の引上紐で、高さを調整します。まず、お方の右側の裾を合わせ、次に左側の裾を合わせます。前側は前衣紋者、後ろ側は後衣紋者が調整します。(くるぶし)を中心に、少し前上がりになるようにします。

(あこめ)を着ける場合※

衵は、前身が長く仕立ててあり、袴に込めずに前に垂らし袍から少し見えるようにします。これを「(いだし)(ぎぬ)」といいます。

袍の着せ方

後衣紋者は、首紙(くびかみ)を手前にして袍をさばき、両手の無名指(薬指)と中指との間に(はた)(そで)(おく)(そで)との縫目の所を挟みます。そして中指と食指(人差指)との間に首紙(くびかみ)蜻蛉頭(とんぼがしら)の手前)を挟み、更に食指(人差指)と拇指(親指)にて(かく)(ぶくろ)(はこえ)の上端を摘んでお方の後ろに立ちます。この時三か所摘んでいる状態です。

後衣紋者がまず格袋を放して、右袖を引き延ばします。前衣紋者は、単の袖をまとめて袍の袖内に入れます。次に左袖も同じように入れます。

次に前衣紋者は、首紙を合わせて正し、後衣紋者は蜻蛉(とんぼ)(がしら)を首紙の(うけ)()の輪に通してかけます。

※蜻蛉頭
蜻蛉頭

袍の前の整え方

前衣紋者が、袍の下前、上前の縫目を合わせ、袴の裾より高さ5~7寸(身分の高い方ほど低い)の位置に整えます。それから下前、上前とも手繰り上げて整えます。右肘で手繰り上げた袍の上前を押さえ、左手で袍の右脇の縫目のやや前方を軽く押し支えて持ちます。前衣紋者は低声で「御前(おまえ)よろし」と言います。この間、後衣紋者は格袋の上縁端を両手で持ち上げている状態です。

袍の後ろの整え方

後衣紋者は、まず正中であることを確認し、お方の右脇の縫目の所を持って前衣紋者に渡します。前衣紋者は、右手で無駄なシワなどを整理し、右手を後ろ側に送り込んで蟻先(ありさき)の所まで降ろして、袍の縫目を正して右手でその上を軽く押さえます。この時、拇指(親指)を広げて袍の上前の端をも押さえて落ちないようにします。

後衣紋者は左手で左脇の縫目の所を持って前衣紋者に渡します。前衣紋者は、右手で無駄なシワなどを整理し、右手を後ろ側に送り込んで蟻先の所まで降ろして、袍の縫目を正して右手でその上を軽く押さえます。

後衣紋者は格袋を上げて、後身頃を整えます。

次に、後衣紋者は抱え紐((くけ)(ひも))の中央を正中に当て、前に回します(二回りする)。前衣紋者は前で衣紋結びをします。

袍の前の込み方

前衣紋者は、まず首紙を整え、袍の下前、上前の縫目を正しく重ね、中央縫目を中心として込み入れ部分を5寸~6寸作ります。中央縫目を中心に、端は両脇まで折り込み三角になるようにします。三角の先を右手で摘み、余った部分は内になで上げます(手を持ち替えて右左ともする)。三角の先を右手にて持ち「こみます」と言います。後衣紋者は「こみます」の声を聞き、お方の両脇あたりの抱え紐(絎紐)の所を両手で押さえます。前衣紋者はまず中央、右方、左方と順次に袍の前を込みます。

  1. 中央
    左手の四指を抱え紐(絎紐)の上の方より中央の所に差込み、袍の縫目の三角を持つ右手の拇指(親指)を上(手前)に、食指(人差指)と中指を下にして摘みます。次に左手の下に入れ、左手を抜くと同時に右手で込みます。
  2. 右方(お方の右側)
    左手の四指を抱え紐(絎紐)の上の方より右の所に差込み、右手の食指(人差指)と中指で、左手の四指と入れ換えて込みます。
  3. 左方(お方の左側)
    右手の四指を抱え紐(絎紐)の上の方より左の所に差込み、左手の食指(人差指)と中指で、右手の四指と入れ換えて込みます。

三方を込み終えた後、両手の食指(人差指)と中指とを「込み」の中に入れて、懐の線が丸くなるように、両指を後ろの方に滑らせます。両方に入れて引き下げる感じにします。

後衣紋者は、格袋の小紐を前に渡します。受け取った前衣紋者が小紐を結びます。結び目は、込み入れておきます。この時、小紐は強く結ばないこと。

袍の袖の取り方

袖はまず右袖から取ります。後衣紋者が、(はた)(そで)と奥袖の縫目より少し外側の袍のたたみ線に鰭袖の端(外側)を合わせ右手で摘み、袍を中側に返してその摘まんだ所に単の袖のたたみ線の端を合わせます。左手で袍と単を下へ引っ張って形を整えます。この時、袍の下端と単の下端が合うようにします。そしてお方にたたみ線の合わさった所を持ってもらいます。

次に左袖も同じようにします。これを「取り流し」といいます。

衣冠単の着装次第(衣紋方一人の場合)

衣紋方が一人の場合の着装次第です。
まずお方は、冠・襦袢・白小袖・(しとうづ)を着用します。
お方は南を向き、装束(入帷(いれかたびら))はお方の左後方(東)に置きます。南が無理な場合は、お方は東を向き、装束はお方の右後方(南)に置きます。これは衣紋者が二人いる場合も同じです。

指貫(引上式)のはかせ方

指貫の腰紐を左右に広げ、引上紐を内側から引き上げ、腰の内側の四か所の輪に片鉤で結びます。後で高さを調整します。

前後を確認し、両足を踏み入れ易いように開きます。前衣紋者はお方の左足側、後衣紋者は右足側を開きます。

まず右足を、次に左足を踏み入れてもらい、いったん静かに指貫を引き上げて、ひっかかりがないか確認し、いったん紐を結ばずそのまま下ろします。

単の着せ方・指貫の着け方

衣紋者は座して単の襟を手前にして単をさばき、次に両手の小指と無名指(薬指)との間に袖口付近(少し内側)をはさみ、両手の拇指(親指)と食指(人差指)にて、襟を摘み、お方の後ろに立って着せます。この時少し肩に被せるようにします。

右袖を引き延ばして小袖の右袖をこれに入れます。次に左袖を引き延ばして小袖の左袖をこれに入れます。

小袖とのおめりは、2分~3分ぐらい見えるようにします。

まず前から、単の衣紋(えもん)(ひだ)(二幅ものはすべてとる)をとります。両手の四指を襞の内に入れ、拇指(親指)を手前にし、真直ぐに下に向けとり、左手で前を押さえます。そして右手で指貫袴を引き上げます。両手で袴の腰紐を持ち、腰紐で単を押さえながら腰の位置で下げます。

衣紋者は腰紐をお方の左右の脇から後ろに回し、両手で両紐をとり一文字にして、単の内側で交差させて紐を前に回し、前紐の上指糸が見えるようにして交差させて後ろに回し、衣紋者は衣紋結びで結びます。

次に衣紋者は、後ろの単の襞を取り、後ろ腰紐を上げ、前に下気味に回します。次に衣紋者は、前で衣紋結びで結びます。この時、二掛目にすべての紐に掛けます。

次に、単の前後左右の衣紋襞を抜きます。まず、お方の右側から抜きます。抜き方は、右手の食指(人差指)と中指で、襞が逃げないように摘み、拇指(親指)で前腰を押さえ、左手の拇指(親指)を脇から単の中に入れ、少しずつ巻き上げるように抜き、形を整えます。2寸ぐらい抜いて、形良くたるませます。これをお方の前後左右で行います。左側の場合は手が逆になります。

袴の内側の引上紐で、高さを調整します。まず、お方の右側の裾を合わせ、次にお方の左側の裾を合わせます。前後とも調整します。(くるぶし)を中心に、少し前上がりになるようにします。

※「つく・へら」がある場合は、単は前後とも前腰紐を回す時に一緒に押さえます。

袍の着せ方

衣紋者は、首紙(くびかみ)を手前にして袍をさばき、両手の無名指(薬指)と中指との間に(はた)(そで)と奥袖との縫目の所を挟みます。そして中指と食指(人差指)との間に首紙(蜻蛉頭(とんぼがしら)の手前)を挟み、更に食指(人差指)と拇指(親指)にて(かく)(ぶくろ)(はこえ)の上端を摘んでお方の後ろに立ちます。この時三か所摘んでいる状態です。

まず格袋を放して、右袖を引き延ばします。単の袖をまとめて袍の袖内に入れます。次に左袖も同じように入れます。

次に衣紋者は、首紙を合わせて正し、蜻蛉頭を首紙の受緒の輪に通してかけます。

※蜻蛉頭
蜻蛉頭

袍の整え方

衣紋者は前から、袍の下前、上前の縫目を合わせ、袴の裾より高さ5~7寸(身分の高い方ほど低い)の位置に整えます。それから下前、上前とも手繰り上げて整えて、指貫の前腰に差し込んで仮留めしておきます。

次に身幅の調整をし、左右が均等になるようにします。
お方の右脇の縫目の上部を左手で折り返し整えながら前に折り返します。そして右手で下に撫でながら整えます(この時小紐を左手で持っていること)。

次に左手で押さえつつ、お方の左側も右手で折り返し整えながら前に折り返して左手に渡し、右手で整えて、右手で小紐を持ち、前で小紐を結びます。この時仮結びにしておきます。
まず、正中を確認し、無駄なシワなどを整理し、蟻先などが整っているか確認します。前の折り返しはゆったりとしておきます。

次に、お方の後ろに回り、前と襴の高さを合わし、左手で格袋を持ち上げて、後身頃を整えます。格袋は上げたままにしておきます。
抱え紐((くけ)(ひも))を、三分の一の短い方をお方の右側から袍に当てつつ前に持っていきます。残りの長い方は、お方の右側から左側に2回回して、前で衣紋結びをします。

次に小紐を解いて、仮留めの上前・下前を抜きます。格袋を整え、格袋を下ろします。そして全体の前後を整えます。

袍の前の込み方

衣紋者は、まず首紙を整え、袍の下前、上前の縫目を正しく重ね、中央縫目を中心として込み入れ部分を5寸~6寸ぐらい(ひとはかり約18㎝)作ります。中央縫目を中心に、端は両脇まで折り込み三角になるようにします。三角の先を右手で摘み、余った部分は内になで上げます(手を持ち替えて右左ともする)。三角の先を右手にて持ち、衣紋者はまず中央、右方、左方と順次に袍の前を込みます。

  1. 中央
    左手の四指を抱え紐((くけ)(ひも))の上の方より中央の所に差込み、袍の縫目の三角を持つ右手の拇指(親指)を上(手前)に、食指(人差指)と中指を下にして摘みます。次に左手の下に入れ、左手を抜くと同時に右手で込みます。
  2. 右方(お方の右側)
    左手の四指を抱え紐(絎紐)の上の方より右の所に差込み、右手の食指(人差指)と中指で、左手の四指と入れ換えて込みます。
  3. 左方(お方の左側)
    右手の四指を抱え紐(絎紐)の上の方より左の所に差込み、左手の食指(人差指)と中指で、右手の四指と入れ換えて込みます。

三方を込み終えた後、両手の食指(人差指)と中指とを「込み」の中に入れて、懐の線が丸くなるように、両指を後ろの方に滑らせます。両方に入れて引き下げる感じにします。衣紋者は、格袋の小紐を結びます。結び目は、込み入れておきます。この時、小紐は強く結ばないこと。

袍の袖の取り方

まず右袖から取ります。(はた)(そで)と奥袖の縫目より少し外側のたたみ線に鰭袖の端(外側)を合わせ右手で摘み、袍を中側に返してその摘まんだ所に単の袖のたたみ線の端を合わせます。左手で袍と単を下へ引っ張って形を整えます。この時、袍の下端と単の下端が合うようにします。そしてお方にたたみ線の合わさった所を持ってもらいます。

次に左袖も同じようにします。これを「取り流し」といいます。

令和の束帯の袖の取り方※

御大礼の折、袖は「取り流し」とします。このため、令和の御大礼では本式に取ったように見えるようにしました。

袍の袖の取り方は、まず右袖から始めます。
後衣紋者は、お方の右方に立ち、両手を単の袖の内に入れて、手を左右に延ばしてさばき、単、袍の袖を揃えた(この時袖の中を覗かないこと)後、左手を肩の所まで差込み、右手で石帯を押さえながら上方に少し上げます。

次に両手の平を合わせて、そのまま(はた)(そで)の縫目の付近まで引き下げます(少し外側。肩山・袖山と肩線(畳み目)が平行になるように)。摘む位置は鰭袖の畳み目の線より手一幅(一咫約18㎝ほど外側)で、袖の内部の左手に外の右手の四指(拇指(親指)を除く)を挟んだ後、右手の四指及び拇指(親指)にて摘み左手を放し、同時に左手の拇指(親指)と四指にて装束の折れ線のところまで、斜め下にしごき摘みます。次に右手を放して、右手の食指(人差指)を左手の四指と拇指(親指)との間に入れて、拇指(親指)と中指で挟みます。左手を外に抜き、左手にて袖口の所を袖口の縁なりに内に二つに折ります。折った端を右の拇指(親指)と食指(人差指)との間に挟み、左手を開き、右手で摘んだ所を頂点にして三角を作ります。左肘を上げ、持った襞(耳)を縦一文字にするように心がけ三角を崩さず、お方の右手で持っていただきます。お方の手は下から回すような感じにします。

先ほど作った襞の所に、袍・単の袖口の折り畳み線を合わせます。この時襞(耳)が二つできることになりますが、一つは袖を整える時に直します。

左手は袖の内にて襞(耳)の所を手前にひるがえし、すぐに左手を放して、左手で袖の内側からしごき下げ、鳩胸(左手を袖の中に入れ、袖を斜め前方に突いて膨らませる)を作ります。この時、右手で袖口の下を持ちます。同時に、左足を前に出し、袖口より外に抜き袖口の下を持ち、同時に左足を引きその位置に右足を出します。左手は、袖の下を摘み、右手で袖口の下から上の方に撫でます(袖の端が内側になる。貝の口のようにする)。

次に、右手で襞のもと(お方の手首の所)を摘み、左手で袖全体及び襞を整えます。そして、単・袍の袖先に整え、肩のところなど全体を整えます。(単・下襲・袍の袖先を揃えて糸で留める)

お方の後ろを通り、左側を右と同じように行います。その場合は右左が逆になります。

参考文献

  • 八束清貫『装束の知識と着装』 明治図書出版 1962年
  • 鈴木敬三『有職故実辞典』 吉川弘文館 1995年
  • 和田英松『官職要解』新訂 講談社 1983年